僕はパックだ。
5名の占い師の運命はどうなったのでしょうか?“占い師のジレンマ”早速話を続けましょう。
翌日、天空の真上に日が燦燦と輝いた時、5名の占い師たちは大広間に集まりました。今回も、だれも自分の名前を書くものはおりませんでした。昨日と同様横一列に立たされたと思う間もなく、3人の兵士が後に近づき、3名の占い師の首をこれまたみごとに切り落としました。
残った2名は隣の部屋に連れて行かれ、そこには昨日と同様に盛りだくさんの料理と王様が待っておりました。
「これで不埒な占い師どもはいなくなった。さあ心置きなく料理を味わってくれ」2名の占い師は、これで首を切られることもない安堵感から、食事もワインもことさら美味しく思えました。しばらくして、酔いで顔がうす赤くなった一人の占い師が王様に尋ねました。「恐れながら王様、これで私たちは側近として召抱えて頂けるのでしょうか・・」
王様は、白い布で口を拭きながら言いました。
「ううん、そのことだがお前たち2名ともども召抱えることはない。お前たちなら判るであろうが、国の運命をまかせる占い師が2名いては災いをもたらす。前にも言ったがお前たちのことを先刻いろいろ調べ上げ、その結果、お前たち2名のうち一人が余の側近にふさわしい占い師であろうとすでに決めておる。そこでだ。余が誰を指名し、その判断が正しいかどうかお前たちに占ってもらいたい。
明日、日が天空の真上に昇りし時までに、今一度生死をかけて占ってみよ。」
王様はそう言い残すと、またそそくさと退出してしまいました。残された二人は、顔面蒼白になったお互いの顔を見合わせ、しばらく席から動けませんでした。
なんとか各々部屋に戻った二人は、占うどころか真剣に考えはじめました。「王様に結果をお答えする言い方としては、《王様の指名は間違っており、指名すべきは自分である》―①《王様の指名は間違っており、指名すべきは相手である》―②《王様の指名は正しく、まさに自分である》-③《王様の指名は正しく、まさに相手である》-④がある。そのうち②と④は首を切られるリスクもありながら、あわよくば当たったとしても相手に側近の地位を明け渡すはめになり、こんな不名誉なことはないので問題外だ。①は、指名されたのが相手であるならば自分を主張することができるが、指名されたのが自分であった場合、王様の意思を否定し、前後の言い回しも矛盾して首を切られるはめになる。となると③の《王様の指名は正しく、まさに自分である》が、指名が相手であったならば諦めねばならないが、自分であれば一貫性があり、側近の地位も保障される。これに賭けるしかない。」二人の占い師は、結局同じ結論に達しました。
翌日、運命の時がやってきました。大広間には、王様が龍の透かし彫りを施した賢者の椅子に座り、その周辺を側近の家来たち数十名が列席しておりました。
占い師二名は、王様の前に引き出されました。二人の両側には、兵士がいかめしい顔で立っておりました。
「どうだ。占いはでたか?」王様は、声高にいいました。「はい」と占い師2名は、蚊の鳴くような声で同時に応えました。そして、王様の指名は正しく、まさに自分であると占いにでたことを、各々慇懃に話しました。
話終え、二人は王様の裁断を固唾を飲んで待ちました。
すると、まず側近たちが退出しはじめ、王様も席を立ち、扉に向かわれようとされました。二人の占い師は、屈強な兵士に腕をとられました。「お待ち下さい王様。なにとぞご下命を。どちらかにご裁断を」。王様は、二人の前に巻物を投げてよこし、「お前たちへの返答はこれじゃ」と言い残し退出していきました。
二人は必死に巻物を拾い上げ、中に書かれているものを、いや自分の名前を探しました。ところがそれを見た二人は、目も飛び出さんばかりの形相で「こ、これはどう言うことじゃ。これは、どういうことですか、王様。これは・・」と叫び、兵士に引きずられながらもう一つの扉の外に消えていきました。
大広間には、先ほどの巻物だけが、吹き込んだ風にくるくると舞い踊っていました。よく見るとそれは、なにも書かれていない、白紙の紙でした。
その後プルド国には、占い師は誰もいなくなりました。国王も自らの判断と叡智を持った側近たちとで公務を運営し、近代国家の礎を築きました。
いまでも小高い丘の上に、岩に彫られた碑があります。それには、こう書かれていました。
【運命は、大いなる神のみぞ知るものなり。ゆえに自らの信念に従い活きることこそ、人の道なり】
最近のコメント